Sにて

Sという店はCと私が毎週日曜に必ず食べに行くお店。
孤独死をしてしまわれたMさんと出会ったのもこのお店。
新年になってから一度もお店へ顔を出していないと 大将が心配なさるといけないから
私に挨拶に行っておいて欲しいとCから依頼され
一人でお店へ行った。
親しくしていただいているからだと思うけれども、一人で来店した私にオカミさんは調子よく話しかけてくれた。
「一人で寄せてもらうと何を頼んだらいいのかわかりませんね。」というと
「いやぁ、いつもいつもあなたが主導権を握って注文してはるんやと思ってたわぁ」と言われた。
しつこく、何度も。
一人で来店したのを Cを差し置いて、抜け駆けしたのだと言いたげだった。
別にそのままにしておいてもよかったのだが
町家を改造してテーラーをやっている若者、女子連れ、が 私の右に座っていて
連れの女子が食事中に喫煙。
煙を私の方へ向けて吐く。
テーラーの男は声がでかい。
かすれた声で、声がでかい。
Sで知り合った別の客がロータリークラブの何かの会で
飛ぶ取り落とす勢いの町家テーラーに講演を持ちかけたらしく
自慢げにその話を大声で。
くさいわ、うるさいわ。
食べた気がしない。

その後もオカミさんはしつこく私に前述のようなことを話しかけるので
「実は、Cさん、今、入院していまして、新年になって一度も寄せてもらわなかったら
大将もオカミさんも心配なさるだろうから、と、ご挨拶に行くように言われて 今日は一人でうかがったんです。」と話した。

びっくりした顔をして そのまま奥へ。
その後、大将が私のところへやってきて
「どうしはったん?いつ事故しはったん?」と 頭から事故だと決め付けて話をされてむかついた。
「すみません。他の方もいらっしゃるので、また改めて話を聞いてください。」と言ったのに
「へぇ。で、どこで?どうしてはるん?」と、客から提供されたお酒を飲んでいるためか、もともとそういう顔立ちなのか にこやかにたずねられた。
「すみません。他の方もいらっしゃるのに このような話をした私が悪かったんです。
すみません。 もう、話をきかなかったことにしてください。ご心配をかけてしまってすみません。」と謝った。

その後、お勘定を頼むがなかなかチェックしてもらえなかったけれど
やっと代金を提示してもらう。
とんでもなく安かった。
支払ってからすぐに店を出る。
店を出るのに大将は外国人連れの警備会社の社長や テーラーとの話に夢中。
そのまま出る。
オカミが追いかけてくるものの振り切る。

「うちは所詮 居酒屋ですから」と 謙遜して話をしてくれていた大将のことを思い出す。
所詮って言葉をあまたの居酒屋をやってはる人々に使うのが失礼だぞ、大将。

病院のベッドの上で、「Sの大将のところ、挨拶に行っといてなぁ」と言っていたCがかわいそうになった。
Bに電話で話を聞いてもらううちに悔しくなって泣けてきた。
Cがかわいそうとかそういうのじゃなくて
町家テーラーとかRクラブとか、そういうのんが嫌いな自分とか
Sの大将が笑ってるつもりがなくても笑っているように見えてしまう人相であることとか
なんかいろいろごちゃまぜ。

その後、一人でごこーゆへ行った。
携帯からミクシィにアクセスしたら 2学年上の先輩からメッセージが届いていた。
私の居場所はどこにあるんかなぁ、と思いながら
久しぶりにクルマの天井を開けてドライブした。